『九谷焼』~石川県

年が明けて間もない1月初旬。
今回は九谷焼の工房にお邪魔させていただきました。

 

JR金沢駅に着いたのが昼過ぎ。
北陸に入った頃から空はどんよりとした雲模様になり、金沢につくと雨が降っていました。

金沢駅にやって来た目的はスターバックスに行くこと。
皆さんはスターバックスの『JIMOTO made series』をご存知ですか?


写真はシリーズの1つで今回取材させていただいた『スタッキングマグ Kutani』
左から、古九谷風/庄三風/銀彩/永楽風

『JIMOTO made series』とは、日本各地にあるその地元の産業、素材を取り入れた商品開発を
行い、その地元の店舗のみで販売するシリーズ』とスタバのサイトには書かれています。
その土地の特色を生かした技術やデザインでマグカップを創り、その地域のスターバックス店舗
のみでしか販売していないシリーズ商品です。

 

そのシリーズの中で以前から欲しいと思っていた商品が、ここ金沢のスタバにあるのです。
その商品がこちら。


加賀の九谷焼のスタッキングマグ『古九谷風』。税抜き4.500yen

こちらを駅前のスタバで購入し、駅ビル内の寿司屋で蟹丼を食べ、すぐに金沢駅を後にします。
実はこの後、取材させていただく九谷焼の工房がまさにこのスタッキングマグを制作した
伊野正峰株式会社さんなのです。

 

本日は専務取締役の伊野さんにスターバックスのJIMOTO made Seriesの制作話を聞かせてもらいました。


「この冬はまだ雪が降ってないんですよ。年が明けるまで降らない年なんて今まで無かったですよ」
と語る伊野さん。

 

2016年秋、スターバックスから今回の依頼を受けた伊野さん。

「いろいろな制約があるとは思ったが、スターバックスから依頼を受けた時は即決で『やってみよう』と
いう気持ちでした。ただ九谷の場合はあまり沢山数を依頼されても制作ができないのです。逆に少ないと
一個当たりの値段が上がってしまう(=お客さんが買い辛くなってしまう)のでその辺りをどうしようか
と。」
まずは制作に入る前に絵柄を考えるスターバックス側制作チームに九谷焼の資料を送り、一方で伊野正峰
側にはスターバックスやJIMOTO made Serisの資料が届き、双方の構想期間を6か月程設けたそうです。

 

そしていよいよ制作がスタート。
スターバックスからの注文はスタッキングできることが条件。
「まずマグカップのボディ(型)を決めないといけません。そして取っ手の形をどうするか。指は1本
入れなのか2本なのか、持ち易さやデザイン性はどうなのか」
それらをサンプルを作っては東京に送るを何度も繰り返したそうです。

 

ここで九谷焼ができるまでの工程を簡単にご説明します。
粘土から形をつくる⇒素焼き(800度)⇒本焼き(1300度)⇒陶器が白くなる⇒絵を付ける⇒790度で焼く。
九谷焼には様々な技法があります。
その中から「古九谷風」「庄三風」「永楽風」「銀彩」の4種を選びマグカップに。
そして九谷焼のコースターも「飯田屋風」「木米風」「青粒」「吉田屋風」の4種を制作することになります。

 

 

・いざ制作に取り掛かると様々な問題が・・

ボディが決まった後、次はスターバックスのデザイナーに九谷焼の資料を送って絵柄をどうするかを協
議。古九谷風には本来金線は入らないが、そこはあえて現代風にアレンジしてみたという。
そこでできたデザインを器に転写する職人に持っていったところ、「絵柄が細かすぎてこれは無理やわ」
との声。
デザイナーと職人との間に伊野さんは入り、数か月何度も行き来します。

 

・「これ程細かい作業はできません!」と制作する職人からの声。

デザインが決まると、絵付けの作業では浮世絵を擦るように転写紙に1色ずつ絵の具を乗せてゆきます。
例えば色の濃淡を出したいときには、薄い色と濃い色と2度3度と分けて色を乗せてゆく。
転写紙にすべての色を乗せると今度は器に転写紙を張り付けてビニル用紙部分だけ剥がすのですが、その
前に器と転写紙の間に入った空気を抜かなければいけません。これが上手く抜かないと絵柄がずれてしま
うので大変なのだそうです。
特に絵柄が細かく、和絵の具が使われている「古九谷風」が今回のシリーズで一番手間がかかり制作が難
しかったとのことです。

 

・最後の焼きで温度を誤ると全てがダメに

「絵柄をつけて焼くのですが、700数十度を超えてしまうと絵柄が溶けて流れ落ちてしまいます」
器の種類によってこの温度帯が違うのだそうです。ここまで絵付けまで順調に行っても、最後の焼き
での温度を誤れば窯の中の全ての器がダメになり、これまでの作業が無駄にしまうことを考えると、
話を聞いているだけで焼き物は本当に難しいと痛感しました。

 

こうして出来上がった商品をスタッフ総出で検品するのですが、絵柄が凄く細かいゆえ納得できない
仕上がりのものも少なくなかったようです。

「試行したものも含めると全体の4割近くは落としたかもしれません。先行発売の10月までにまず
各種50個ずつ納品することになっていましたので、間に合うかなという心配はありました。一般の方が
見たら何処がダメなのか解らない器もあるかもしれませんが、納得いかないものは落とします」

また発売に向けてスターバックス側からの依頼で九谷焼の勉強会も行われた。
伊野さん自ら石川県内の10店舗(販売しているのは内9店舗)すべての各スターバックスの店長へレク
チャーを行い、絵付や窯元への見学を丸一日かけて行ったそうです。

そして、2018年10月13日完成して販売の日を迎えます。
話をもらってから2年が経過していました。
「宣伝はインターネットだけでね、あと地元の新聞にも載りました」
販売初日には東京ほか他県から買いに来たお客さんもいたそうです。

今回このスタバックスのマグカップが九谷焼の美しさを知るきっかけになったとお伝えすると、
「そう言っていただけるのが一番嬉しいです。特に若い人が九谷焼に興味を持ってもらえるのが一番
嬉しいです」と語る伊野さん。

 

今回のデザインについてお伺いしたところ、

「金沢をイメージしたデザインでも、雪吊りであったり灯篭であったりコーヒー豆であったりを上手く融
合して、そして現代風にアレンジしたのはやっぱりデザイナーさんはすごいと思いましたね。
私ら地元の人間は雪吊りや灯篭のアイデアは浮かばんし、浮かんでもそれらを器にドンと1つ描くだろう
と思います。」

最後に今回制作の方々のちょっとした遊び心が見えるところを教えてもらいました。
「古九谷風」マグの灯篭の絵の中で1か所だけ敢えて色を抜かない灯篭があるとのこと。
金沢に訪れた際は、是非スターバックスでJIMOTO made九谷焼に触れてみて下さい。

 

 

本日はお忙しい中、急な取材依頼にも関わらず快くご対応していただき、ありがとうございました。

 

                                                                伊野正峰株式会社
石川県能美市末信町イ61番地
0761-57-0121

 

 

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